近視の原因については、「遺伝要因」と「環境要因」が複雑にからんで起こると考えられています。
メガネで矯正できないくらい強い近視には、遺伝的な影響が大きいことが知られています。最近の研究でも、親に強度近視があると子どもが早いうちから強い近視を生じることが報告されていて、強い近視は遺伝的要因が大きいと思われます。
しかし弱い近視であっても、両親が近視の子どもは、(片方の親が近視である場合および両親共に近視でない場合と比較して)近視の頻度が明らかに高い研究結果が報告されています。
それらのことからも、近視になるかならないかは、「遺伝要因」が関係していると考えられています。
目の使いすぎ、という要因については、同じように近くを見る作業に熱中しても、近視になる子とならない子がいるわけで、目を使いすぎると必ずしも近視になるとは限りません。
しかし一方で、ネパールの地方の学校と都会の学校で近視の頻度を比較したところ、近くを見ることの多い都会の学校の子どもに、近視が明らかに多いという報告もされています。
近くを見ることが多いという「環境要因」は、やはり近視の発生や進行に重要な役割を果たしていると思われます。
最近の学校保健統計調査では小学生の1/3、中学生の1/2以上が裸眼視力1.0未満となっており、視力低下の傾向が続いています。その原因としてパソコン・ゲーム機・携帯電話でのメールなど、近くを注視する機会が増えて「環境要因」による近視化を招きやすくなったためと考えられています。
人間の目は水晶体の周囲の「毛様体筋」が緊張したり、ゆるくなったりしてピントを調節します。
手元よりにピントを合わせた状態が続くとその距離を見やすいように順応するために、眼軸長(目の前後の長さ)が伸びたりして眼球全体の屈折力(目の度数)が手元よりにかわってくることで、近視が進むと言われています。
ひよこの実験で「狭い空間」で育てた場合と「広い空間」で育てた場合を比較すると、「狭い空間」の方が眼軸長の延長(=近視化)があると実験的に証明されています。人間の場合も眼軸長が長くなるほど近視の度数が強くなります。
単に過剰に調節力が働いたままの状態での近視化(調節緊張・いわゆる仮性近視)は、トレーニングや点眼治療などでの回復が期待できますが、その状態が長く続いて眼軸長が伸びて眼球全体の屈折力(目の度数)が固定してしまった場合は、回復が期待できなくなってしまいます。
「環境要因」による近視の進行は、日常の生活習慣を見直すことで防ぐことが可能です。
背筋をきちんと伸ばし、目と本は30cm以上離して読みましょう。
「姿勢をよくするように」とは日常ごくあたりまえのように言われていることですが、姿勢が悪かったり、寝ころんでテレビや読書をするのは、近視が進んだり、左右での視力差がでたりしやすくなると言われています。
姿勢が悪いと目と本の距離が近くなりすぎたり、左右で目と本の距離に差がでたりするためです。
急に近視が進んだとき、姿勢をよくするだけで改善することも少なくありません。
また、暗いところやバスや電車の中で本を読むのも負担がかかりやすくなり、あまりよくありません。
照明は300ルクス以上の明るさが必要です。
部屋の照明以外にLED電球なら700~1000ルーメン、白熱電球なら40~60W、蛍光灯なら15~20Wの追加照明があるとそのぐらいの明るさを確保できます。電灯には昼光色と電球色のものがありますが、電球色の場合はやや暗く感じることが多く、昼光色もしくは昼光色+電球色のミックスがよいでしょう。
長時間、毛様体筋を緊張させたままにすることはあまりよくありません。
肩こりなどと同じで一定の姿勢でじっとしていると筋肉が固くなるように、近業作業などで長時間じっと見つめると毛様体筋が緊張したままになり、それを繰り返すと近視が進行しやすくなってしまいます。
勉強や読書を1時間ぐらい続けたら、10分間くらい目を休ませることも必要です。
テレビやパソコンの画面は30分以上見続けないようにし、適度に目を休めましょう。
携帯型ゲーム機は一日30~60分以内にしましょう。ただし、たとえ一日30分以内であったとしても毎日おこなうとかなりの負担になります。する日としない日を決めて負担をかけすぎないようにしてください。
携帯電話でのメールも画面が小さいため、10分以上続けると目の負担は少なくありません。最近、メールのやりとりを頻繁にすることで近視が進む例が増えています。
パソコンやデスクワークなどの近業作業のときは、作業中にときどき遠くを見たり、意識的にパチパチまばたきしたり、目を上下左右にぐるぐる動かしたりしてみてください。目の疲れもでにくくなります。休憩時には、目をとじて休めたり、蒸しタオル等で温めて血行を良くするのも効果的です。
雲や遠くの景色や星空などをボッー眺めたりすることは近業作業で緊張した毛様体筋を弛緩させ、近視を進みにくくします。1日に2時間以上屋外で遊ぶことで近視の進行が予防できたデータもあり、室内に閉じこもってばかりいないで屋外へ出ることだけでも効果があります。
運動や散歩などをして体を動かすと、緊張した固くなった毛様体筋や目を動かす外眼筋にも良い影響があります。 運動は近業作業でのストレスを心身共にリラックスさせる効果があります。
夜更かしはよくありません。
特に成長期のお子さんの場合は、早寝早起きして、きっちり朝食をとるようにさせるだけでも、近視の進行を防ぐのに効果的とされています。
睡眠不足や不規則な生活は、体や目の疲れもとれにくくなりますし、ホルモンバランスも崩れがちです。
夜更かしすると屋外や日中明るいところでの生活時間が短くなり、テレビ視聴や暗いところや狭い空間での生活時間が長くなってしまい、近視化を助長しやすい環境になりがちです。
また、栄養バランスの良い食事も大切です。目に良いとされる健康食品も数多くありますが、特定の栄養素に固執せず、まんべんなく栄養バランスの良い食事を心がけ、規則正しく摂取することが大切です。
「教室の一番後ろから黒板の字を見るのには0.7以上の視力」、「一番前からでも0.3以上の視力が必要」です。
また、「普通自動車運転免許証も0.7以上の視力」が必要です。
裸眼視力0.7以上 | 一般的にはまだ眼鏡なしでも大丈夫ですが、必要に応じて眼鏡を使用します。 |
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裸眼視力0.7未満~0.3以上 | 席を前の方にしてもらう必要が出てきます。席が後ろの場合は必要に応じて眼鏡が必要。 |
裸眼視力0.3以未満 | 眼鏡が必要。 |
近視の進行を恐れて眼鏡をかけさせたがらない方も多いですが、見にくそうに目を細めてばかりいると、目を細める癖がついたり、余計な調節力を働かせて近視化を助長させやすいので、そういった場合は適切な眼鏡装用が必要です。
眼科での眼鏡処方は、目の検査をしてから装用練習を行い、問題がないことを確認して眼鏡処方箋を交付します。
お子様の初めての眼鏡処方の際には、過矯正眼鏡(度数の強すぎる眼鏡)の装用は近視を進行させるという研究結果もあるので、当院では目の緊張をほぐす点眼薬を使用して、度数の強い眼鏡を処方しないよう特に留意しております。
眼鏡の掛け外しについては、眼鏡を常に装用したお子様と遠くを見るとき(見えにくい時)のみ使用したお子様との近視進行にほとんど違いがなかった報告もあるため、軽度の近視であれば、授業中に黒板を見るときのみかけさせて、家で勉強や読書するときなど手元を続けて見るときは眼鏡をはずす方が良いと言われています。
お子様の場合、成長にともなって顔の大きさも度数も変化するため、1~2年ごとに眼鏡枠もレンズも交換しなければならない場合も少なくありません。そのため高価すぎる眼鏡枠は必要なく、壊れにくく安全な物がよいでしょう。眼鏡レンズは軽い物をおすすめします。
中学生以下の場合、取り扱いと衛生面から、特殊な場合をのぞいてコンタクトレンズはあまりお勧めしていません。眼鏡の方が目に負担が少なく安全だからです。ただし、左右差が極端に強い場合や角膜乱視がかなり強い場合など、眼鏡よりコンタクトレンズの方が良好な視力を得るためにのぞましい場合もあります。
コンタクトレンズは昔に比べて改良が重ねられて目に対する負担が少なくなり、連続装用のできるものも増えてきましたが、角膜の透明性を保つ角膜内皮細胞などへの影響を考えると、はずして目を休めることも必要です。したがってコンタクトレンズを作る場合でも、眼鏡を持っておいて併用した方がよいでしょう。
コンタンクトレンズにはハードレンズ、ソフトレンズ、使い捨てソフトレンズなど各種ありますが、目の状態や使用する環境などによって合う、合わないがあり、個々に応じた選択が必要です。
近視はいったん進んでしまうと回復は難しいですが、仮性近視(調節緊張)の段階であれば生活環境の改善や点眼治療、訓練などで回復する場合があります。
近くを長く見続けると、水晶体の厚さを調節している毛様体筋が異常に緊張して、一時的に近視の状態になってしまいます。これを調節緊張といい、俗に「仮性近視」と呼ばれていて、この場合は点眼薬を使用することで視力回復が期待できます。
トロピカミド点眼薬は、1日1回就寝前に点眼することで、ピント調節を司る筋肉(毛様体筋)を休ませることで、目の緊張を緩和させます。また、メチル硫酸ネオスチグミン配合点眼液は、1日3~4回点眼することで、毛様体筋の働きを高めてピント調節機能の改善を促します。
視力回復の程度には個人差がありますが、回復が頭打ちになった場合でも、ピント調節の緊張緩和や改善効果から、眼精疲労対策として近業作業が多い方には続けていただくこともあります。
非選択性坑ムスカリン作用をもつアトロピンは、その毛様体弛緩作用による調節の遮断、眼軸長延長の抑制などの作用により、近視の進行を抑制することが以前から知られていましたが、それまで一般的に用いられていた1%アトロピン点眼薬では、散瞳作用と調節麻痺作用が強く現れるため、広く使用されることはありませんでした。
しかしながら低濃度の0.01%アトロピン点眼剤では散瞳、調節力低下の副作用をほとんどきたさずに近視進行抑制効果があることがわかり、SingaporeNational Eye Centre(SNEC:シンガポール国立眼科センター)の研究に基づいてマイオピン点眼薬が開発されました。さらに、2025年4月には日本で初めて承認された、防腐剤フリーの1日使い切りタイプで長期間の使用にも安心な、新しい点眼薬が発売されました。
「就眠時に装着して寝るだけで昼間は裸眼で過ごせる」という角膜形状を矯正するコンタクトレンズによる治療法です。強度近視や乱視の人には適さないなどの欠点はありますが、就眠時だけの装用なので目への負担も少なく、手術と違いしばらく装用をやめると元の状態に戻るので、子供の治療も幅広くおこなわれています。
就眠時レンズを装用して角膜形状を変化させることで、近視進行の原因でもある眼軸長(目の奥行きの長さ)の伸長を抑制できたため、近視進行を抑制する効果が期待できるという研究結果が報告されています。
年齢が若いほど効果が出やすく、しかも長時間維持されるといった特徴があります。就眠時のみの装用のため、コンタクトレンズの取り扱いについて保護者の方の管理が可能となることから、より安全性が高いとの指摘もあります。
近年、携帯ゲームやスマートフォンの普及などにより、小学生の裸眼視力低下者は増加傾向を辿っています。
近視になると、緑内障・黄斑変性・網膜剥離などの病気の発症リスクが高まりますので、成長期の近視進行予防が非常に重要となります。
近視進行抑制治療用の治療機器を1日2回、1回3分、週5回のぞき込むことで近視の進行を約90%抑えることができたとの結果が2022年に報告され、最近注目を集めている治療方法です。
最近は手術で近視を矯正する方法も行われています。レーザー屈折矯正手術(レーシック)や有水晶体眼内レンズ(ICL)などがあります。
カロテノイドの1種であるクロセチンが近視の進行を抑制した研究データが発表され、クロセチン配合のサプリメントが近視進行の抑制に期待されております。